ユニットについて

獣医生化学ユニットの
ホームページへようこそ!

当ユニットは、獣医学でも基礎の学問の教育を担当しているユニットで、研究では、生体内の仕組み、そして病態に至るメカニズムを物質レベルで解明していくことを基本としています。
研究室の体制は、岩野(教授)、藤木(講師:アメリカUCSDに留学中)の2名の教員体制で運営しており、そのほか、研究のサポートとして、特任教員の井上先生(株式会社NDTS)、乗松先生(アメリカ薬事コンサルタント)に参加いただいています。
ユニットには、毎年4年生から6年生、6〜7人程度の学生が所属して、研究に遊びに、就職活動にと活発に楽しんでくれています。

研究について

ファージセラピーとは?

現在のイチオシの研究は「ファージセラピー」です!
みなさん、薬剤耐性菌の問題はご存知でしょうか?
近年、感染症といえばCOVID19による世界的なパンデミックが問題とっていますが、薬剤耐性菌はそれ以前から長年懸念されている重要な問題です。このまま何も対処しなければ、2050年にはガンによる死亡者数を超える年間約1千万人が薬剤耐性菌によって命を落とすという試算があります(スライド1 オニールレポート:Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for health and wealth of nations. UK, December 2014 Tackling Drug-resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. UK, May 2016)。
また、本年報告された論文によると、薬剤耐性菌の感染が関連した死亡者数は世界で495万人であり、そのうち、薬剤耐性が直接の死の原因であるものが127万人にものぼると報告されました(Global burden of bacterial antimicrobial resistance in 2019: a systematic analysis. Lancet. 2022 Feb 12;399(10325):629-655)。

そのような状況を救う切り札として期待されるのが、「バクテリオファージ」です!
バクテリオファージ(ファージ)は、みなさんよくご存知の生物の教科書に取り上げられているアレです、まるで宇宙船が月面着陸しそうな形をしたものです。ファージはウイルスですが、我々には感染しません。細菌に感染して細菌の中で増えて、その細菌を破壊してくれます(スライド2、3)。
薬の効かない細菌にも感染して破壊してくれます。そう、まさに「敵の敵は味方」となり、細菌感染症の治療薬として人や動物の命を救える可能性があるのです!このファージを使用した治療を「ファージセラピー」と言います。ファージセラピーの歴史は古く、東欧諸国では、およそ100年にわたり人の感染症治療に応用してきました。しかし、世界の薬剤の基準に合致したファージ製剤はまだありません。

パターソン症例

このような状況の中、2016年に多剤耐性のアシネトバクターの感染による瀕死の状況からファージセラピーにより回復した症例、パターソン症例が報告されました。
アメリカにおいては、未承認薬でも安全性を担保した中での緊急使用を認めるシステムがあり、申請から3日で許可を得て、およそ59日間のファージセラピーにより復帰されました(スライド4 ケミカルタイムス 藤木、樋口、岩野 2018 No. 4 25-31、Antimicrobial Agents and Chemotherapy 2017 Volume 61 Issue 10 e00954-17)。

我々の研究室の取り組み

ファージセラピーの実用化へ

2007年に研究室としてファージセラピーの研究を取り組み始め、優秀な学生たちのおかげで着実に実績を積み上げてきました。細菌感染症、薬剤耐性菌の問題は、獣医領域でも永遠の課題であり、多くの現場の獣医師が頭を悩ませている問題です。
我々の最終目標はファージセラピーの実用化です。ファージセラピーの実用化によって、動物、人の命を救い、また畜産や食品業界などにおいて薬剤耐性菌の蔓延を防ぐことも可能となると確信しています。

日本初!ファージセラピーの
臨床試験

昨年、ファージセラピーの実用化に向けて、日本で初めてとなる臨床試験(犬の難治性外耳炎に対するファージセラピー)を行い、見事成功に導きました(スライド5~8)。
薬で治らなかった犬の耳の細菌感染症が、ファージセラピーで完治しました。
その結果を受けて、今年度はクラウドファンディングを行い、臨床試験の支援を受けながら、さらに症例数を重ねていく予定です。

ぜひみなさん、我々の研究にご期待ください!そしてどうぞご理解ご支援をいただきたいと思っています。
さあ、研究室のみんな、ファージセラピーで未来の医療を切り拓きましょう!

研究室配属を目指す
院生・学生さんへ

獣医生化学ユニットに所属したい学生さんへ

獣医学6年間の中でどのユニットに所属して、何を学ぶかは重要かと思います。獣医学教育の総仕上げですし、そこでの経験は卒業後に大きく影響すると思います。
生化学は基礎の研究ユニットですが、卒業後の進路には全く関係なく興味がある方が選んでいただければ良いと思います。

基礎のユニットでは、一つの研究テーマを突き詰めて、小さくても何かしら新しい発見を目指して研究を行います。その過程では、問題を見据える、仮説、実験、検証を行いながら、新しい発見を目指していきます。これは、臨床や公務員における検査などでも必須のスキルとなります。そしてそのスキルを活かして物事の本質を捉えることが上手になることと思います。

人生において、いろいろな重要なこと、決断、人とのコミュニケーションなどありますが、ユニットの活動の中で皆さんの人生が豊になるような経験を積んでいただければと思っています。
また、研究については、ワクワクしながら高みを目指しましょう。

大学院生へ

研究は、主体的に追求しながら、そこにワクワクする楽しみを見出すことが大事と思います。ぜひ、高みを目指して楽しみましょう。
特にファージセラピーについては、我々で切り拓きましょう!

岩野 英知


獣医生化学教室では細菌にのみ感染し殺菌するウイルス「バクテリオファージ(ファージ)」によるファージセラピーの研究を推進しています。
しかし!私たちは、ただファージが薬剤耐性菌を殺菌できる、ということだけで喜んでいる訳では有りません。感染症をより上手く制御し、次世代型の感染症治療法を提案・実現することが目標です。そして何より私たちのファージセラピーで目の前の“いのち”を救うこと、これが最大のゴールです。

一方で、そこまで辿り着くためには、徹底的な基礎研究によってファージと細菌の関係を深く解明し、確固たる理解・基盤を形成する必要があります。そのために、ファージがどうやって感染するのか、細菌はどうやってファージに対抗するのか、そういったことを一つずつ丁寧に紐解き、感染の分子的なメカニズム、ひいてはウイルスと細菌が垣間見せる生命現象の本質に迫るべく、日夜研究に励んでいます。
特に、たった1本の試験管の中でも、ウイルス(ファージ)と宿主(細菌)の生存競争、そして進化は絶え間無く繰り広げられています。

推進しているプロジェクトの一つに「進化学的トレードオフ(fitness-cost)に基づく革新的なファージセラピーの創出」が有りますが、これは簡単に言うとこのドラマチックな現象を分子レベルで紐解き実際の感染症治療に役立てようとするものです。また、実際のファージセラピーでは、ファージのウイルス学的な基礎理解が、最適な治療方針の立案やその実施に大きくものを言います。

獣医生化学教室で分子的な仕組みや本質を深く捉え、日本では未だ数少ない“ファージオロジスト(Phageologist)”を目指しませんか? そんな高みに辿り着くために、私たちにできることをただひたすら、しかし本気で地道に積み重ねていきましょう!

藤木 純平