研究業績

ファージの感染機構とファージ耐性化メカニズムの解明

細菌は抗菌薬に耐性化したようにファージにも耐性を獲得することが分かっています。これはファージセラピーの課題の一つと言えます。
ファージ耐性化を上手く制御するためには、ファージの感染メカニズムの理解が極めて重要です。こういった理解を背景に、私たちがファージ耐性を制御するために大切にしているポイントは、①:ファージ耐性化の阻止、と②:治療に有利なファージ耐性化の誘導、の2つに集約されます。

複数のファージを組合わせたファージの併用剤を「ファージカクテル」と呼びます。特に、ファージが病原菌に吸着する際に必要な受容体を明らかにすることで、効果的なファージカクテルをデザインすることに繋がります。よく設計されたファージカクテルを使って、ファージ耐性の発生自体を阻止することを目指します。

一方で、ファージカクテルを用いてもファージ耐性菌が発生してしまうかもしれません。そこで、私たちは、“仮にファージ耐性菌が発生しても、治療にとって有利にファージ耐性を誘導する戦略”を考えています。これまでの緑膿菌ファージをモデルとした解析では、緑膿菌がファージに耐性化すると、これまで効きにくかった抗菌薬が効きやすくなる“ファージと抗菌薬感受性のトレードオフ”の仕組みを見出しました。
すなわち、ファージセラピーでファージが効きにくくなっても、今度はこれまで効きにくかった抗菌薬で治療できる、そんな次世代型の感染症治療法の実現を目指しています。抗菌薬感受性に加え、細菌の病原性とのトレードオフも検証を進めています。

緑膿菌がファージに耐性化する際に抗菌薬の感受性が回復するメカニズム。
緑膿菌染色体上のgalUはファージ受容体をコードする遺伝子、mexXYは薬剤排出ポンプをコードする遺伝子を指す。大規模な染色体欠失を伴ってファージに耐性化すると、ファージ受容体と共に薬剤排出ポンプも欠失するためトレードオフが引き起こされる。こういった仕組みを特定の選択圧や環境に適応するためのfitness costとも呼ぶ。
この場合、ファージの感染から逃れるために、抗菌薬の感受性を高めることを代償的コストとして支払ったと解釈できる(Nakamura K and Fujiki J. et al. Virus Res. 2021.より)。
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